喫茶アカペラ
東京の路地裏にある、古ぼけた喫茶店がある。
『喫茶アカペラ』
テレビはもちろん、雑誌にも扱われたことがない隠れた名店。
-上質な豆を使った美味しいコーヒー、
そして本格的なカレーをお届けします-
店長 酒井雄二
カランコロン~
「うぃーっす。」
大柄のサングラスをかけた男が入店してきた。
「あ、てっちゃん。まだ準備中だよ?」
「準備中っておま、おれ食材届けに来たんだけど・・・」
「あ、そっかぁ~。」
「相変わらず黒沢天然だな」
「もう天然という枠こえてるよねぇ。」
「「自分でいうなっ!!」」
「って、あれ酒井さんいたの?」
どうやら今村上と叫んだのは酒井らしい。
「黒沢ぁ、お前料理の準備したのかぁ?」
「えっとねー、今からする予定だよ。」
「今からって・・・開店まで30分ぐらいしかないんだけど。」
「いいじゃん、どーせ客こないし。」
「ヤス!!」
ヤスと呼ばれた金髪の少年は村上の後ろに隠れていたらしい。
「今日もぼくたちの貸切でしょ?」
「少しぐらいきっと来るから!!」
「だって、こんな予約制の路地裏にある喫茶店にわざわざこないって。なんで予約制なの?」
「・・・料理のほうに問題があるんだよ。」
「でもぽん兄の料理おいしいよ?」
「味はいい!ただあいつをほっとくと―」
酒井が言いかけたとき、厨房からカレーのいい香りがしてきた。
「またかぁああああ!!!!!」
その一言で安岡はすべてを理解した。
「なんでお前が料理しだすとカレーしかつくらないんだっ!!」
「だっておいしいじゃんカレー。今日はチキンカレーだよ♪」
「コック辞めちまえ!!」
「ま、ま二人とも落ち着いて。」
慌てて村上が仲裁に入る。
「ね、テツも言ってることだしさぁ~。」
「お、ま、え・・・」
怒りのあまり言葉にならないらしい。
「あのー、お取り込み中申し訳ないんだけどさ、開店まであと5分しかないよ。」
痩せ型の男がひょっこりと顔を出す。
「北山遅ぇよ!!」
何故か村上が咆える。
「ただでさえ、お前作るのに時間かかるだろ?」
「んー、まぁ。」
「なんで、お前乳製品ダメなのにパティシエなんだろうな。」
「なんででょうねー。」
天然2。
「お前わざとやってる?」
「そう見えちゃいますかねぇ。」
「ああ、かなり。」
「店長に怒られる前につくったほうがいいんじゃない?」
すかさずヤスが漫才を止めにかかる。
「うん、そうする。」
北山の姿が厨房に消えていった。
「この店ホントに大丈夫か・・・?」
そう村上がつぶやいた瞬間、
ガターン!!
厨房で何かが倒れる音がした。
「またか!!」
慌てて厨房に向かうと倒れた北山の姿があった。
ボールにはたっぷりの牛乳が注がれていた。
「よーちゃん大丈夫?!」
ヤスが心配そうに駆け寄る。
「・・・大丈夫。」
北山がゆっくりと体を起こす。
「ヤス、いつものことだから気にすんな。な、北山。」
「ええ、どうも乳製品を長い時間見ていると気分が―」
「北山またかぁあああ!!!」
酒井がすごい形相で厨房に入ってきた。
「しょうがないでしょう、苦手なんだから。」
「パティシエ辞めちまえ!!」
「だって、他にこの店に仕事あります?」
「猫の世話と菓子パン買出し。」
「それは雄二さんの超個人的な仕事でしょう。それに菓子パンならテツが買ってきてくれてますよ。」
「本当か、テツ!」
酒井は若干興奮気味になっている。
「あぁ、えーっとこれでいいんだろ?」
そういって村上は袋からとりだしたパンを手渡す。
「こっ、これは!!」
「何、嫌いなやつだった?」
「ねこぱんシリーズ新作『猫の手』じゃないか!!」
「・・・何それ。」
「知らないのか?!まったく最近の若者は・・・」
「いや、お前と俺たちそんな年変わんねぇから。」
「それにいい年した大人が菓子パンもどうかと思うよ~」