「まったく、ヤスの方がよっぽど大人だよ。」
「よーちゃん!ってか、さっきから気になってたけど子供扱いしすぎじゃない?俺一応皆とそこまで歳変わんないんだけど。」
安岡のもっともな指摘に誰一人触れることなく会話は続いた。
「北山、デザートとかは運んだのか?」
「ああ、もうとっくに。」
「お客さんは?」
「話しながらまだコーヒー飲んでるけど。」
「しっかし、普通すぎるっつーかなんかなぁ。」
「何が?」
「俺さぁ、思うんだけど。喫茶アカペラって名前の割にただ音楽流すだけの喫茶店ってつまんないと思わねぇか?」
「確かに、他でもやってるよね。」
「せっかく予約制なんだぜ?もっと名前にふさわしい、こう、なんかやらねぇとリピーター増えないと思ってさ。」
「その何かって?」
「んー、例えば…歌とか。」
「え、テツ歌えたっけ?」
「なめんなよ、カラオケの平均78点だぜ。」
「俺大体90点だよ。」
「何ぃ!!」
「ってか、てっちゃんカラオケ行ったの2.3回じゃん。」
「う"っ…!!」
「嘘はダメだよ~。嘘つきはなんとかの始まりっていうでしょ?」
「黒沢、それを言うなら嘘つきは泥棒の始まりだろ。」
「ってかお前も終わったのか?」
「とっくにね、てかさっきの話俺にも聞かせてよ。」
「歌のこと?」
「うん、おもしろそうじゃん♪」
「でもどうやって歌うんだよ、マイクも何も無いのに。」
「やっぱここは店の名前にちなんでアカペラはどうだ?」
「いいけど誰が歌うの。」
「・・・。」
黙ったままの全員の視線は村上に注がれていた。
「え、何俺?!」
「だってさっき歌に自信あり気なこと言ってたじゃん。」
「いや、そりゃ言ったけど・・・。流石に俺一人じゃきついぜ?」
「じゃあ他に歌える人挙手。」
当然ながら誰も手を挙げない。
そして数分間の沈黙。
そんな中、突然村上が口を開いた。
「北山、お前決定。」
「はい?」
「歌えないなんて言わせねぇぞ、お前さっきカラオケ平均90とか言ってたじゃねぇか。」
「いや、でも俺より歌える人いますよ?ね、黒沢さん。」
「え、俺ぇ?!」
「この前カレー作りながらなんか英語の歌口ずさんでたじゃないですか。」
「じゃあお前ら2人決定な。」
「ってかさ!だったらみんなでやればいいじゃん!!」
「待てよヤス、5人は多すぎるだろ?」
「そんなことないよ、メインとかベースとか色々パート分けすれば5人はいるよ。」
「でもいきなりできるわけが・・・」
「できるよ!だってこれだけ上手い人達が揃ってるんだよ?それに―」
「それに?」
「酒井さんやりたそうだし♪」
「え?!」
いっせいにメンバーが酒井を見る。
いきなりの安岡の発言に酒井は動揺を隠せない。
「どうなんだよ、雄二。」
「お、俺はー・・・」
「もっと素直になりなよっ。」
「俺はー・・・」
「・・・もし歌ってくれるなら某メーカー限定菓子パンあげてもいいけど。」
「歌います!」
「おま、単純なやつだなぁ。」
「違いますよ、本当は歌いたかったんですよ。でも素直になれそうに無かったので僕がきっかけ作ってあげたんです。」
「ほら、お前ら無駄口叩いてないでさっさと歌う準備!!菓子パンかかってんだからなぁ!!」
酒井の激が飛ぶ。
「さ、行きましょう。」
なんでもお見通しといった北山の笑みがやけに恐ろしく感じられた。
村上の表情は軽くひきつっている。